大阪高等裁判所 平成11年(ネ)3070号 判決 2000年9月29日
控訴人(一審原告)
株式会社八木研
右代表者代表取締役
A
右訴訟代理人弁護士
福原哲晃
同
中島清治
同
松村信夫
同
和田宏徳
被控訴人(一審被告)
株式会社三善堂
右代表者代表取締役
B
被控訴人(一審被告)
株式会社カリタ
右代表者代表取締役
B
右両名訴訟代理人弁護士
竹田章治
同
小川憲久
同
池田眞一郎
主文
一 本件控訴をいずれも棄却する。
二 控訴人の当審における予備的請求をいずれも棄却する。
三 控訴費用は、控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは、原判決別紙イ号目録、ロ号目録及びハ号目録記載の仏壇を譲渡し、引き渡し、譲渡もしくは引渡しのために展示又は輸出してはならない。
3 被控訴人らは、前項記載の各仏壇を廃棄せよ。
4 被控訴人株式会社カリタは、控訴人に対し、金二〇四〇万円及びこれに対する平成八年一二月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
5 被控訴人株式会社三善堂は、控訴人に対し、金六二五六万円及びこれに対する平成八年一二月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
6 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
二 被控訴人ら
主文と同旨
(以下、控訴人を「原告」、被控訴人を「被告」という。また、略称については、原判決のそれによることとする。)
第二事案の概要
一 本件は、仏壇仏具の製造販売業を営む原告が、同業者である被告らが製造販売している三種類の仏壇(本件被告商品)の形態が原告の商品表示として周知性を有する現代仏壇シリーズに属する仏壇(本件原告商品)の形態と類似しており、被告らの販売行為は不正競争防止法二条一項一号の周知表示混同惹起行為に該当するとして、被告らに対し、同法三条、四条に基づき、被告商品の販売等の差止め、その廃棄及び損害賠償を請求した事案である。
原審は、本件原告商品の形態には原告の商品表示として周知性があるとはいえないとして、原告の請求を棄却した。
そこで、原告は、本件控訴を提起し、右の各請求を維持するとともに、予備的に、被告らの形態模倣行為が不法行為に該当するとして、民法七〇九条、七一九条に基づく損害賠償請求を追加提起した。
二 基礎となる事実、原告の請求、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」及び「第三 争点に関する当事者の主張」(原判決四頁一行目から一五頁九行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決の訂正
(一) 原判決七頁八行目から九行目にかけての「昭和五三年ないし五四年ころに」を削り、同八頁一行目の「以後」を「昭和五九年以降」と改める。
(二) 原判決九頁三行目から九行目まで(本件原告商品の形態的特徴)を次のとおり改める。
「(1) 仏壇前面の扉の引出しの前板は、全てウォールナットのムク板で構成されている。
(2) 仏壇部分正面の扉は四枚で構成され、各々中央部寄りの扉と両側面寄りの扉の接合部は、「流れトメ」と呼ばれる方法(扉の接続部を一定の角度で角切りに接合する方法)を用いて接合されている。
(3) 両側面寄りの二枚の扉は、中央寄りの二枚の扉に対して約一五度後方に傾斜するように接合されている。
(4) 以上の方法により扉板が接合されているため、本件原告商品を正面方向から見ると、中央部寄りの二枚の扉の幅が広く両側面寄りの扉の幅が狭く見え、かつ両側部が後方に傾斜した「隅切り」を付けたように見え、全体として立体感を演出するよう工夫されている。
(5) 右正面の扉の中央部中段部分の扉板の一部を半円状にくり抜いた把手が存在する。」
2 当審における原告の追加請求に関する双方の主張
【原告】
(一) 原告は、昭和五九年に「自由仏壇」を発売して以来、次々と新しいコンセプトのもとに現代型仏壇を発売してきたが、右各シリーズは、全体として「現代仏壇」の名称として呼ばれている。
しかるに、被告らは、原告の右「現代仏壇」の人気や評価の高さ、及びこれによってもたらされている商業的成功(Commercial Success)にただ乗りする目的で、平成七年八月ころから、原告商品「ネプチューン」及び「ガーベラ」の商品形態を酷似的に模倣した商品を製造販売し、さらに、平成七年九月ころから、本件原告商品1ないし3を酷似的に模倣した本件被告商品1ないし3を製造販売している。
このほか、被告らは、原告の「現代仏壇」の花シリーズに属する「シクラメン」「カサブランカ」「スーパースター」、メモリーシリーズに属する「山」「セイコ」「かすみそう」等についても模倣商品を製造販売している。
このように、被告らは、本件原告商品のみならず、原告の「現代仏壇」に属するシリーズ商品を順次模倣している。
(二) このような被告らの行為は、不正競争防止法上の行為に該当しないとしても、「工業上又は商業上の公正な慣習に反する」不正競業行為に該当し、民法七〇九条の不法行為に該当する。
(三) 損害については、主位的請求の場合と同様である。
【被告ら】
(一) 原告の右主張は、控訴審において初めて主張されたものであるが、原審において右主張をなすことは可能であったから、時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである。
(二) 原告らの右主張は、従来の訴訟物と異なる「訴の変更」を伴うものであり、第二審の終結が予定されていた期日前に、このような訴の変更をなすことは、民事訴訟法一六七条の趣旨に鑑みても却下されるべきである。
(三) 原告の主張(一)、(三)の事実は否認し、(二)の主張は争う。
第三当裁判所の判断
一 不正競争防止法に基づく請求(主位的請求)について
当裁判所も、本件原告商品の形態が商品表示としての周知性を有しているとの争点1に関する原告の主張を認めることはできず、同法三条、四条に基づく原告の請求は理由がないものと判断する。その理由は次のとおりである。
1 証拠による認定事実(原告の現代仏壇シリーズの発売経緯及び種類、現代仏壇シリーズに関する記事の掲載、現代仏壇シリーズに関する宣伝広告、本件原告商品の販売量、他社の家具調仏壇の形態)は、次に付加訂正するほか、原判決「事実及び理由」欄の「第四 争点に対する当裁判所の判断一1」(原判決一六頁一行目から二四頁二行目まで)に記載のとおりあるから、これを引用する。
(一) 原判決一六頁九行目の「甲28」の次に「、34ないし39、43」を加える。
(二) 原判決一七頁三行目の「甲28」の次に「、40、43」を加える。
(三) 原判決一七頁四行目と二〇頁一〇行目の各「三点」をいずれも「五点」と改める。
(四) 原判決二三頁八行目の「家具調仏壇」から次行の「昭和五八年には」までを「昭和五八年、」と改める。
2 右の認定事実に基づき、周知性について検討する。
(一) 元来、商品の形態は、主としてその具備する機能を最も良く発揮させる目的や美感を高める目的で選定されるものであって、商標のように商品の出所を識別させる目的で選定されるものではない。しかし、当該商品の形態が同種の商品と識別できるだけの個性的な特徴を示す場合には、長期間独占的に使用するとか、宣伝広告を積極的に展開するとか、種々の媒体に取り上げられるとか、多くの販売実績を積み重ねるとかの事情が重なることによって、需要者の間において、その形態を有する商品は特定の事業者が製造販売している商品であるとの認識が浸透することがあり得、その場合には、商品形態も不正競争防止法二条一項一号にいう周知の商品表示たり得ると解される。
(二) いわゆる家具調仏壇といわれるものは、前記1で引用した原判決(第四の一1(五))のとおり、遅くとも昭和五八年以降市場に存しており、その商品の性格上、洋服ダンス等の一般の家具に似た外観上のデザインが採用されるのが自然な傾向である。乙1ないし5及び12に示された他社の家具調仏壇も、それぞれデザインは異なるが、右に述べた基本的な傾向において共通性を有しているものと認められる。そして、右乙号証自体の頒布時期は平成九年ころ以降であるものの、家具調仏壇のデザインの右のような性質からすれば、右乙号証に示されたような家具調の仏壇は、デザインの差はあれ、それ以前からも市場に存したものと推認される。
本件原告商品の形態は原判決別紙目録1ないし3のとおりであって、右のような家具調仏壇の中に本件原告商品を置いてその形態を考察すると、確かに本件原告商品の形態は、全体としてシンプルであり、かつ洗練されたデザインになっており、だからこそ前記1で引用した原判決(第四の一1(一))のとおり、財団法人大阪デザインセンターからグッドデザイン商品に選定されたと考えられる。
しかし、前記第二の二1(二)において原告が本件原告商品の形態的特徴と指摘する五点について考察するに、(1)の点(仏壇前面の扉の引出の前板が、全てウォールナットのムク板で構成されている。)については、従来型の仏壇の材質と比べて特徴的であるといえても、他の家具調仏壇と比較して特徴的であるとまではいえない(乙1、2)。
また、(2)ないし(4)の点(要するに、仏壇部分正面の扉は四枚で構成され、両側面寄りの扉が中央部寄りの扉から一五度後方に傾斜するように接合されているため、仏壇前部の角に「隅切り」を付けたように見え、全体として立体感を演出するよう工夫されている。)についても、従来型の仏壇の形態からすると特徴的であり、また、通常の洋服ダンスなどの家具を想定しても、それらの形態が箱形を基本とし、それらの前面は平面であるのに対し特徴的ではあるが、他の家具調仏壇にも、同様の方法によって立体感を持たせているものが存する(乙1、2)。なお、これらのパンフレットは、平成一〇年から一一年にかけてのシーズンにおけるものであり、しかも、原告は、乙2の製作者に対し、一部の仏壇の製造販売の差止めを求めて提訴し、差止めを内容とする和解が成立しているが、右のことのみによって、原告が長期間、独占排他的に使用してきたともいえない。
(5)の点(正面の扉の一部を半円状にくり抜いた把手が存在する。)についても、従来型の仏壇には見られない形態ではあるが、把手を半円状にくり抜くというだけでは、全体の印象に与える影響は少ないといわざるを得ず、他の家具調仏壇や通常の家具において見ることのできない特徴であるとも思われない。
むしろ、本件原告商品は、原告の現代仏壇シリーズの仏壇の中でも、光シリーズやコスモスシリーズに比べると、仏壇としての形態上の個性は弱いというべきである(甲4)。
以上によると、本件原告商品は、前記乙号証記載の家具調仏壇や、そのデザインモデルとなる一般の家具の形態と照らし合わせて見ても、家具調仏壇として他と隔絶した顕著な印象を与える形態を有しているとはいえない。
(三) また、原告の現代仏壇シリーズについては、前記1で引用した原判決(第四の一1(二)、(三))のとおり、多くの記事や広告宣伝活動がなされてきたと認められるが、その内容としては本件原告商品に的を絞ったものは僅かであり、本件原告商品の形態が紹介されるときでも、多くは、他の現代仏壇シリーズの商品と同列に紹介されるものとなっており、本件原告商品が現代仏壇シリーズの中で特別に強力に宣伝広告がなされたとはいえない。そして、原告の現代仏壇シリーズは多種のものがあり、年々新たなシリーズが追加されているのであって、その中には本件原告商品よりも個性の強い形態的特徴を有するものもあることからすれば、それらの宣伝広告に接した需要者が、現代仏壇シリーズというモダンなデザインの一連の仏壇が原告の商品であるとの概括的認識を得ることができるとしても、特に本件原告商品の形態を採り上げた場合に、それが原告の商品であるとの認識を得るに至っているとまでは認め難い。
なお、原告は、本件原告商品は、その形態上、周知の原告の現代仏壇シリーズに属するものと需要者は認識すると主張する。
しかし、前記のとおり、原告の現代仏壇シリーズには多種のものがあり(甲4、28)、そのデザインがある一定の特徴に集約することができ、これをもって、明確に他の仏壇と区別し、原告の商品であることを識別できるだけの特徴を備えているとまでは認められず、前述したとおり、現代仏壇シリーズというモダンなデザインの一連の仏壇が原告の商品であるとの概括的認識を得させる程度に過ぎない以上、原告の右主張も採用できない。
(四) また、その販売実績については、原告商品1ないし3を併せると最高で年間八〇〇本超に達することがあり、その数字は仏壇業界では相当高い数字であるが(甲44)、平成八年七月一七日及び二〇日の朝日新聞の記事(甲9及び10)においても、全国的に見ると現代仏壇の占める割合はまだ僅かであるとの原告の東京営業部の言が掲載されており、本件原告商品の市場占有率が高いとはいえない。
(五) 以上からすれば、本件原告商品の形態は、平成七年一二月以前はもちろん現在においても、未だ、その形態自体が自他識別力を有しているとはいえず、また、その直接の購入者である一般消費者の間で原告の商品であることを示す商品表示として周知性を獲得しているとも認められない。
また、一般に取引業者の場合には一般消費者と比べて商品に接する機会が多く、また、その形態や出所に関する情報は重要であると考えられるので、それだけ商品形態からその出所を認識することがよくできると考えられるが、そのことだけで、直ちに、取引業者間において、本件原告商品の形態が出所表示機能を取得したと認めることはできず、前記(二)、(三)の事情に照らすと、一般消費者におけると同様、本件原告商品の形態が商品表示性を有しているとはいえない。
二 不法行為に基づく損害賠償請求(当審で追加された予備的請求)について
1 被告らによる模倣行為について
(一) 原判決別紙目録1ないし3及びイ号ないしハ号目録に記載された本件各仏壇の形状及び寸法等の対比並びに原審における検証の結果によれば、本件被告商品1ないし3は、本件原告商品1ないし3と対比して見た場合、外観上は、色合いや材質感において多少の違いがあるものの、それぞれ実質的に同一といってよいくらいに極めて類似していることが明らかである。
そうすると、右のように、三種類の仏壇が偶然に酷似するなどということはおよそ考えられないことであるから、他の一連の模倣行為の有無について判断するまでもなく、本件被告商品は、先行して市場に出ていた本件原告商品を模倣して製造されたものと優に推認することができる。
右のような場合、まず、被告らの行為が不正競争防止法二条一項三号の商品形態模倣行為に該当するものとして、同法上の権利救済が考えられるが、これと併せて、民法七〇九条の不法行為が成立する余地もあるというべきであり、この理は、最初の発売日から三年間という保護期間の経過により、右不正競争防止法上の救済の余地が考えられない場合でも同様と解される(右の保護期間が経過したからといって、形態模倣行為がすべて適法となるわけではない。)。
(二) そこで、検討するに、前記第二の二の基礎となる事実(引用に係る原判決第二の一)、第三の一1の証拠による認定事実(同第四の一1)に証拠(甲4、28、29、30、乙9ないし11、13、原審原告代表者、原審被告ら代表者)を総合すると、次のとおり認められる。
(1) 原告は、肩書住所地の本店のほか、東京都内に支店を持ち、都内をはじめとする関東地区でも活発な営業活動をしている(平成五年には、東京支店にショウルームを設置した。)。
(2) 原告は、昭和五九年に「自由仏壇」シリーズの名称で現代仏壇の販売を開始し、その後毎年のように新しいシリーズを発売してきたが、本件原告商品は、平成三年に発売された「匠」シリーズに属し、1、2の商品(ハバネラ、ソナチネ)は、平成三年末ころから、3の商品(ワルツ)は平成五年六月ころから発売された。その販売価格(定価)は、1が六七万円、2が六二万円、3が三三万円であった。
(3) 原告は、本件原告商品を含む一連のシリーズの商品(現代仏壇)開発に際し、複数の社外のデザイナーと提携するとともに、宣伝広告活動にも力を注ぎ(詳細は原判決一九頁四行目から二二頁六行目まで)、そのために相当の時間と費用をかけていると推認されるが、その結果、本件原告商品1を含む数種類の商品がグッドデザイン商品に選定された。
なお、平成四年八月から平成一〇年七月までの間の本件原告商品の販売量は、各一年毎に、二六五本、六一〇本、七二三本、八二〇本、六五六本、五四四本である。
(4) 被告三善堂は、平成二年に設立され、東京都内のほか埼玉県及び神奈川県下に合計九店舗を構え、主に仏壇仏具の小売販売をしている。被告カリタは、被告三善堂の仏壇製造部門として、平成四年六月に同被告によって設立されたもので、その製品のほぼ全部を同被告に納入している。
(5) 被告カリタは、平成七年九月ころから本件被告商品の製造を始め、そのころから平成九年三月ころまでの間に、少なくとも六八本を製造して、これを被告三善堂に納入し、被告三善堂はこれを顧客に販売した(そのうち四六本が一般客への店頭売りで、二二本が同業者への卸売りである。)。
(6) 被告三善堂の店頭販売価格(定価)は、本件被告商品1(りんどう50)が六三万円、2(りんどう40)が五七万円、3(あじさい)が三九万円とされていたが、実際には定価の一〇パーセントから三〇パーセントの割引率で販売されていた。
(三) 右(一)、(二)の事実によれば、本件原告商品の完全な模倣(いわゆるデツドコピー)といえる本件被告商品について、本件原告商品1、2が発売された三年九か月後ころから、被告カリタにおいてその製造を開始し、被告三善堂において、原告の販売地域と競合する地域において廉価で同商品を販売したということができるところ、本件の仏壇という商品は、投下資金を回収するのにある程度の期間を要する、いわゆるライフサイクルが長い商品であることを併せ考えると、右のような被告らの行為は、原告において多大の時間と費用をかけて獲得した成果にただ乗りするものであって、公正かつ自由な競争として許容される範囲を著しく逸脱した違法な行為との評価を免れず、不法行為を構成するというべきである。
2 損害について
原告は、主位的請求の場合と同様の損害(引用に係る原判決第三の三。不正競争防止法五条一項による推定)を主張するが、民法七〇九条に基づく損害については、右の推定規定の適用はないから、これを原告において主張立証する必要があるところ、本件において、被告らの前記模倣行為によって原告に損害が発生したことを認めるに足りる証拠はない。
すなわち、仏壇には、多種多様なものがあり、家具調仏壇についても数多くの種類があることを考えると、本件原告商品と酷似する本件被告商品が販売されたことをもって、被告らがそのことによって得た利益に相当する損害を原告が負ったとは直ちに認めることはできないし、被告らの行為によって本件原告商品の販売数に影響があったと認めるに足る証拠も存在しない。また、本件被告商品の製造販売により、原告が値下げを余儀なくされたなどの事情も認められない。
3 なお、被告は、当審における原告の予備的請求の追加提起及びこれに伴う主張の追加が、時機に遅れているなどとして却下すべきであると主張するが、右の予備的請求の提起は民訴法一四三条一項本文の要件を充足しているし、これに伴う主張の追加も、時機に遅れてはいるものの、原告においてさらに立証方法を提出していない以上、これにより訴訟の完結を遅延させるとは認め難いから、被告の主張は採用できない。
三 結論
以上によると、原告の請求はいずれも理由がないので、主位的請求を棄却した原判決は相当である。よって、本件控訴及び予備的請求をいずれも棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法六七条、六一条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鳥越健治 裁判官 山田陽三)
裁判官小原卓雄は、異動により署名押印することができない。裁判長裁判官 鳥越健治